本当に必要なのはハイレゾCD。
旧ブログ記事を更新し、再掲(初出2014年11月11日)
What you really need is a high-resolution compact disc.
第1章
本来、オーディオシステムの目的とは音楽を手軽に楽しむ事、日常の生活シーンにおいて音楽のある暮らしを実現する事などでしょう。
音楽の生演奏を聴くのはどのジャンルの音楽においても楽しい行為であって、一度も生演奏を聴かずにオーディオシステムの音しか知らないで、音が良いか悪いかと議論するのは無意味でしょう。とはいえ、演奏会でクラッシックの生演奏を聴くような行為は非日常的であり、大抵の場合、入場料も高価なのでそう頻繁に聴きに行くことはできません。
オーディオシステムが誕生したことによって、生演奏の代わりにオーディオシステムの電源を入れてレコードに針を落とすだけで、カラヤンのような有名な指揮者がベルリン・フィルハーモニーオーケストラを指揮した演奏を、曲がりなりにもコンサート会場に出かけたようなつもりで聴くことができるようになったのでした。
また、日常生活を潤いに満ちたものにするために、ドライブのBGMや学芸会で使用する音楽を、レコード等を音源にしてカセット・テープレコーダーなどで自由に編集作成し使用することができたりしました。これらは皆、私的利用の範囲ということで合法的に認められていました。
音楽用CDの後継規格を制定するとき、本来は技術革新に応じて、素直に量子化ビットを16 bitから24 bit、そして32 bitに改良し、サンプリング周波数も、44.1 kHzから、48 kHz、96 kHz、192 kHz、384 kHzとより高周波に対応し、20 Hz~20 kHzの人間の耳に聞こえる帯域の忠実度をだんだんと高める新規格に改訂していけば、正しい進歩を歩めたのではないかと思われます。
ところが、実際には、著作権保護に重きを置きすぎた対応をしたため、音楽用CDは迷走を初めてしまったように思われます。DVD-Audioは事実上消滅し、SACDは普及率がいまいちで、結局、未(いま)だCD-DAが多くの場面で使用されています。
液晶パネル用のポリカーボネートを素材に使用したSHM-CD、液晶パネル用ポリカーボネートとアルミニウムの換わりに特殊合金を使用したHQCD、 Blu-ray Discの素材と製造技術を応用して開発したBlu-spec CD,Blu-spec CD2等、次々と新しいCDの種類が生まれましたが、音楽フォーマットがCD-DAと共通のため、音質的アドバンテージが、それほど高くなく、いずれも、CD-DA後継にはなり得ませんでした。
音楽を聴きたい消費者に本当に必要なのは、現代の技術で可能なハイレゾの音源で記録されたCD-DAと同じように取り扱える音楽用コンパクト・ディスクなのではないでしょうか?
ハイレゾ音源に対応したクラウド系の音楽サイトの会員になって、オンラインでの再生や、一度購入した楽曲は何度でも自由にダウンロードできる権利を所有する形態では何故駄目かといいますと、クラウド系のサイトが営業を継続できないような状況にいたってサービスを終了するような事が起きたら、お終(しま)いだからです。
また、ダウンロード販売で手に入れる音源はバイナリーファイルなわけですが、その保存に関して、いろいろ課題があります。DRM(著作権保護)が付いているファイルは機器をまたがってバックアップを取ることはできません。DRMがないファイルはバックアップが可能ですが、パソコンのハードディスクからNAS中のハードディスクに保存しておいても、もしも、両方のハードディスクが故障したらすべて消えてしまいます。
USBメモリには、物理的接触が必要な接点があるという問題があります。非接触式レーザーで読み取るCD-DAと違って、抜き差しを繰り返すと接点の金メッキがはげ、接触不良になって、読み取れなくなることもあり得ます。
現在の技術ではもっとも長期間の保存に向いているのは、光学ディスクです。保存時に温度・湿度の変化の影響を受けにくく、防塵(ぼうじん)性、耐水性、耐環境性があるからです。また、光学メディアはジャケットに入れて回転していない状態で保管しておくことが可能ですが、HDDは電源が入れば超高速で回転し、取り外すことは原則できません。そのため、クラウド側のセンターサーバーのバックアップ用途に、民生用では発売の予定がない、Blue-ray後継の、業務用次世代光ディスク規格Archival Discが策定されています。
光学ディスクには、大量生産が可能というメリットもあります。USBメモリにファイルを保存する場合は、大量生産しようとしても、ファイルコピーに一定の時間が掛かってしまいます。
つまり、個人が消費者として音楽を購入するとき、最善の規格は液晶パネル用ポリカーボネートなどの長期保存に適した新素材を最新の製造技術を応用して製造した、ハイレゾの音源で記録されたCD-DAと同じように取り扱える音楽用コンパクト・ディスクだと言えるでしょう。
第2章
ところで、24 bit/48 kHz以上の条件に当てはまるデジタル音楽データをハイレゾリューションの音源と言うようですが、本当に音が良いのでしょうか?
人間の聴覚では20 Hz~20 kHzの音しか聞こえないと言われています。更に20 kHz程度の高音が聞こえるのは20代前半までの若い間だけで、大人になりますと、耳の良い人でもせいぜい16 kHz程度が上限になると言われています。つまり、16 kHz以上を再生できるようにしても、聞こえているはずはないわけです。しかしながら、ハイレゾ音源の音楽を聴きますと、実際に音が良くなったと思う人が多いのは事実のようです。
楽器の音や人間の歌声などの音楽信号はマイクと呼ばれる音波を電気信号に変える変換器(トランスジューサー)でアナログ信号に変えられます。この電気信号を磁気テープに直接録音したものをアナログ録音といい、昔のレコードはこうして作成されたマスターテープから、金型が作られて作成されていました。この頃の磁気テープが残っている場合、ハイレゾ音源がこのマスターテープから作成される事があります。
アナログ信号をADコンバーターで変換し、デジタル音楽データを作成します。ADコンバーターにはクロックを入れる必要があります。ADコンバーターは時間的に連続しているアナログ信号をクロック信号の1,0のタイミングで分解します。これをサンプリング処理と言い、このときのクロックの周波数をサンプリング周波数と言います。44.1 kHz、48 kHz、96 kHz、192 kHz、384 kHzなどは代表的なサンプリング周波数です。
サンプリング処理しますと、アナログの電圧を保持したままのPAM(Pulse Amplitude Modulation)信号というラジオのAM変調に似た信号ができます。このままでは、デジタルデータとして編集・保存できませんので、電圧方向で0か1かに符号化(2値化)する必要があります。この処理を量子化と言います。こうしてできるデジタル音楽データの事をPCM(Pulse Code Modulation)信号と言います。このときの電圧方向の変化はアナログでは数V程度なのですが、これを何ビットの符号に割り当てるかで、元の振幅(電圧変化)をどれだけ忠実に再現できるかが決まります。16 bit、24 bit、32 bitなどは代表的な量子化ビット数です。
量子化ビット数が増えますと、どのぐらい忠実度が上がるかといいますと、
16 bit=2の16乗=65536通りの符号に割り当て可能
24 bit=2の24乗=16777216通りの符号に割り当て可能
32 bit=2の32乗=4294967296通りの符号に割り当て可能
と言う事ですので、CD-DAに比べて、24 bitは256倍(2の8乗倍)精度良く、32 bitは65536倍(2の16乗倍)精度良くアナログ信号を符号化する事ができます。
つまり、量子化ビット数が増えますと、聞こえる範囲の20 Hz~20 kHz(オーディオ帯域)の音楽信号のクオリティー(品質)が向上するのです。
また、ビット数が増えますと、量子化雑音が減るという利点もあります。量子化雑音はアナログ信号を2値データに変換するときの分解能によって決まる誤差の事です。原理的に、測定できる最小単位1に対して四捨五入で丸めますと-0.5~0.5の間の値になります。つまり、最小単位の値が量子化雑音に対応するという事ができます。そこで、量子化ビット数毎に最小単位(LSB)を計算してみましょう。アナログ信号を2 Vrms(交流実効値)と考えると2 Vrmsは約2.8 Vpeakですので、
16 bitでは約42.7 uV
24 bitでは約166.9 nV
32 bitでは約0.65 nV
になります。
一方で、抵抗やトランジスタなどから発生する真性雑音と呼ばれる物理現象があります。これは抵抗内の電子の熱擾乱(ねつじょうらん)による雑音であり、抵抗の熱雑音と呼びます。
ナイキスト氏の発見した数式で計算する事ができます。
熱雑音Vn(単位はuVrms)は、
Vn=SQRT(4kTRB)×10^-3
k=ボルツマン定数、T=絶対温度、R=抵抗値(kΩ)、B=帯域幅(kHz)
で求まります。
常温(25℃)、1KΩの抵抗1本、20 kHz帯域幅での熱雑音は、
Vn=約0.58 uV=-131dB(2 Vrms信号に対して)となります。
0.58 uV=580 nVですので、明らかに、24 bit以上の場合、量子化雑音の理論値は物理法則以下になりますので、無視できます。つまり、オーディオ機器メーカーの努力次第で符号化方式の壁に当たらずに、(物理法則の範囲内で)ローノイズ化が可能という事になります。CD-DAでは、原理的に量子化雑音が大きいと言えます。
サンプリング周波数(fs)も可能な限り高い方が波形がアナログ信号に忠実になります。サンプリング定理によって、AD変換したい音源の周波数の2倍以上でサンプリングすれば良いという事になっていますが、2 kHzのアナログ信号を、44.1 kHzでサンプリングした場合は、周波数が約20倍なら、波長は1/20ですので、クロックの立ち上がりエッジ毎にサンプリングしたとすれば、2 kHzの音源は約20箇所でサンプリングされる事になります。
それに対して、20 kHzの音源は、約2箇所しかサンプリングされない事になります。つまり、2 kHzの低い音はその波形がたくさんのサンプルによって正確に記録されるのに対して、20 kHzの上限ギリギリの高い音はその波形がたった2点のデータでデジタル的に記録される事になります。ということは、高い音は波形が不正確になるはずです。
そのため、fsが高い方が、20 kHzのような上限に近い高い音もたくさんのサンプリング点によって、波形が正確に再現されるでしょうから、アナログ信号の波形再生の忠実度が高くなります。
また、DA変換後のアナログオーディオ信号には、折り返し雑音(エイリアシング雑音)と呼ばれる信号が発生します。これを取り除くために、DAコンバーターの後にはLPF(ローパスフィルター)が必要になるのですが、LPFで取り除くのはfs/2以上の信号のため、fsが44.1 kHzですと、オーディオ帯域の上限20 kHzとfs/2の22.05 kHzの間で非常に急峻(きゅうしゅん)な減衰量が必要になり、9次チェビシェフ型のような回路が必要になります。こうしたLPF回路は製造が難しく、周波数特性は良いのですが、位相特性は暴れていて音に何らかの悪影響を与えているかも知れません。
もし、fsが高い周波数、例えば、384 kHzならば、オーディオ帯域の上限20 kHzとfs/2の192 kHzの間で必要な減衰量を稼げば良くなり、なだらかな特性を持った(位相の変化も緩やかな)低次フィルターで対応する事が可能です、その分、音質も改善されているはずです。
要約しますと、ハイレゾによって聞こえないはずの音が聞こえるから良い音と感じるわけではなく、聞こえている範囲の音楽信号のクオリティー(品質)が向上しますから、良く聞こえるのです。
ということは、これは、聞こえる範囲の音が良くなっているということですので、アナログに再変換された後の電気信号は20 Hz~20 kHzを再生できるオーディオ機器で再生すれば十分と思われます。USB-DACや音源プレーヤーはハイレゾ音源対応に変える必要がありますが、プリメインアンプやスピーカーは変えなくても問題はないという事ですね。
もっとも、20 Hz~20 kHz対応のオーディオ機器にハイレゾ音源を再生させようとしますと、スピーカーのツイーターが破損するとか、オーディオ機器が故障する可能性もないわけではありません。そのようなリスクを避けるためには、ヘッドフォンやスピーカーはハイレゾ対応にしておいた方が安全かも知れません。
第3章
下記のような音楽用ディスクの規格があっても良いのではないかと考えて仕様書を作成しました。
・量子化ビット 32 bit固定小数点形式
・サンプリング周波数 384 kHz、768 kHz
・オーディオ帯域 20 Hz~20 kHz
・コピープロテクトは行いません
音楽著作権保護期限の切れた楽曲等を利用しましょう。
物理的な規格、誤り訂正符号の規格などの、製造メーカーでなければ決定できないことは対象範囲外です。データ保存用の光学ディスクを媒体に利用する事にします。この方式ならば、実際に作成することができるはずです。
この仕様書に基づいて作成された光学ディスクを再生するときは、最初にルートにある目次ファイルとIMAGEディレクトリに存在するアルバムイメージファイルを参照します。アルバムイメージファイルを表示し、目次ファイルにある曲名などを表示します。ユーザー入力によってトラックが選択されたら、該当するトラックの音楽ファイルを読み込んで、32 bit PCMストリーミングデータをDACに転送します。これで音楽の再生が始まるはずです。
以上
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